「甲州親子だるま」が白いのは、繭と綿の豊作への想いから

昔の山梨県の経済は養蚕と綿の出来、不出来によって左右されていました。そこで、農民たちの間にその豊作を願って繭玉(まゆだま)の形や綿の花の色を模した「白だるま」-当時の通称で木綿(もめん)だるまーを祀る風習が生まれました。

だるまを作るのは塗料の乾きやすい気候が適していることもあり、農家は田植えと稲刈りの合間の期間を使った副業として、蔵の中でだるまを作りだめて生活の足しとしていました。

「甲州親子だるま」の誕生については17世紀ともいわれていますが、途絶えそうな郷土工芸品の製作を玩具づくりの名人から引き継ぎ1970年、伝統に現代的なテイストを採り入れて新たな息を吹き込んだのは、甲府市在住、初代の斉藤岳南(がくなん)さんでした。現在はその伝統を残そうという想いと職人技が2代目斉藤岳南さんに受け継がれ、「民芸工房がくなん」で手作りのだるまが作られています。

子どもにも髭、そして親だるまの目は拝む人をみつめます

手づくりの「甲州親子だるま」は、わずかですがひとつひとつ表情も異なります。でも、どれにも共通して言えるのは、まっすぐ前をみる子どもの目には「自分の思う道を突き進んでいってもらいたい」という親の気持ちがこめられているということ。

一方、親の目は神棚等に祀った時に拝む人の目と合うようにやや下目づかいになっています。

子どもが立派に育つことへの想いは、口のまわりに生えている一人前の髭にも表れています。

一般的に、だるまのデザインには縁起の良い要素が入っていることが多く、「甲州親子だるま」にも「鶴亀」と「松竹梅」という要素が採り込まれています。よく見ると、だるまの脇の部分に「松」「竹」「梅」をモチーフとした絵柄がはいっているのがお分かりいただけると思います。そしてだるまの眉毛は「亀」のかたち、髭は「鶴」のかたちを変形させたものですが、この組み合わせが一般のだるまとは逆になっていることが「甲州親子だるま」の特徴です。

また、デザイン上で大きなアクセントとなっている金のラインは達磨大師の衣のしわを表現しています。

これは初代斉藤岳南さんがつくった

「甲州親子だるま」の試作品。

いまの親子だるまのデザインとどこが違う?

 

答えはそう、親の目が見ている方向。子だるま同様、まっすぐに正面をみていますね。貴重な試作品ですが、比較の結果、やはり親の目はもともとの企画通り、神棚を見上げる人と合うように下目づかいにしたほうがよいという結論にいたりました。